ストーカーについて

小金井ストーカー殺人未遂事件

概要

2016年5月21日に東京都小金井市で発生した殺人未遂事件。
芸能活動を行っていた大学生の冨田真由さん(20歳)を、ファンを自称する岩崎(旧姓:岩埼)友宏(27歳)がTwitterなどのSNS上でストーカー行為を繰り返した後、小金井市内のライブハウスにてナイフで20ヶ所以上刺し重体に陥らせた。
以前より真由さんからストーカー被害の相談を受けていた警察は、真由さんの携帯電話番号を110番緊急通報登録システムに登録していたが、小金井市内のライブハウスより真由さんの携帯電話から110番通報があった時、警察は真由さんの位置情報を確認せず真由さんの自宅に警察官を派遣してしまった事も問題となった。
その後に目撃者による通報で警察が現場に駆けつけ、その場にいた岩崎を傷害罪で現行犯逮捕。
後に岩崎が「殺すつもりでやった」と供述したことから容疑を殺人未遂と銃刀法違反に切り替え送検した。
真由さんは事件後病院に緊急搬送されたが、20ヶ所以上刺されたため一時心肺停止状態となり、その後も長い間意識不明の重体に陥っていた。
6月3日頃、意識を取り戻し一命を取り留めたが、一部の神経が麻痺し、視野が狭くなり、男性恐怖症など心的外傷後ストレス障害(PTSD)を負うなどの後遺症が残った。
現在でも、後遺症で口に麻痺が残り、食事や会話にも支障が出ているという。
この事件をキッカケに、TwitterなどのSNSを使った「つきまとい」も、ストーカー規制法の規制対象とすべく法改正された。

経緯

岩崎は京都府京都市右京区に在住する会社員で、東京都内の私立大学に在籍している大学生で、女優やシンガーソングライターとして活動していた真由さんに対して、ファンを自称していた。
2016年1月中旬ころから岩崎は『君を嫌いな奴はクズだよ』と名づけたTwitterアカウントで真由さんと接触を試みる。
当初は真由さんに対し好意を持った書き込みが目立っていたが、真由さんから返信がない事などによる嫉妬心から不穏な書き込みが増加。

「そのうち死ぬから安心して」といった攻撃的な書き込みを向けたり、一方的に贈り付けたプレゼントを返却するよう真由さんやその関係者に要求した。

なのに警察には、プレゼントとして岩崎が贈った腕時計を返送されて殺害を計画したと供述しており、真由さんに腕時計を返却された後はさらに書き込みが過激化している。

真由さんは警視庁武蔵野警察署に書き込みをやめさせるよう相談。

しかし同署は真由さんに恐怖心が見られなかったことを理由とし一般相談として処理し、ストーカー事案などの専門部署に連絡しなかった。

また真由さんの母親が右京区に住む岩崎の嫌がらせを止めさせるよう京都府警察にも相談していたが、これに対しても京都府警は警視庁に相談するように伝えていた。

 

岩崎は真由さん以外の女性に対しても、SNSで嫌がらせを繰り返していた。
2013年には芸能活動を行う10代女性のブログに対し、脅迫的な書き込みを残したとして警視庁より呼び出しがあったものの、岩崎は出頭しなかった。

更に2015年12月、滋賀県在住の女性からも、岩崎との対人関係について滋賀県警察に相談があったようだ。

 

事件当日、自身のブログに「行ってきます」と残し、自宅のある京都より上京。

真由さんが現れるまで長い時間待ち伏せし襲撃の機会をうかがっていた。

真由さんが小金井市のライブ会場に入ろうとする前、岩崎が接触。

真由さんは岩崎を無視しつつ110番通報した。

その後真由さんは、岩崎に会場内に立ち入らないよう諭すが、岩崎は電話をかけ始めた真由さんに激高し、犯行に及んだ。

犯行後岩崎は「かわいそうと思った」ことにより、自ら東京消防庁に119番通報した。

また、犯行後真由さんに「生きたいの?生きたくないの?」と声を掛けたという。

岩崎は、警視庁小金井警察署の取り調べに対し、プレゼントの返却やTwitterをブロックされた事を動機に挙げ、「真由さんと結婚したかった」と述べた。

 

伊勢崎市に住む岩崎の兄は、岩埼について「自分の感情を表現するのが下手で、溜め込んでは感情を爆発させる事が多かった」と評している。

岩崎は幼少期に柔道を始め、中学時代に県大会で優勝するなど成績も良かった。

岩崎を知る人物は、岩崎は子供に人気があり「優しすぎる」一面があると語った。

しかし、柔道で華々しく活躍するその一方で人間関係がうまくいっておらず、中学生時代の同級生は岩崎の様子を「普段から口数が少なくて、部活の後も一人で帰っていたし、女関係の話が出たことも一切ありませんでした」と語っている。

また、岩崎はAV女優の波多野結衣のバスツアーに参加し、彼女の作品に出演したこともあった。

 

判決

岩崎は一審で懲役14年6か月の判決が言い渡された。
岩崎は判決を不服として東京高等裁判所に控訴したが、その後翻意し控訴を取り下げ、刑が確定した。

 

法廷での異常なやり取り

被害者意見陳述の場で、冨田さんが被告への憎しみを読み上げた時、被告から見えないよう衝立の奥に座った冨田さんは「こんな人を許すことができません」と発言。
次の瞬間、岩崎は「じゃあ殺せよ!」と叫んだ。
法廷はざわついたが、冨田さんが果敢に「絶対に許してはいけない! 一方的に恋愛感情を抱き、思い通りにならなければ殺そうとする。今度こそ私を殺しに来るかもしれない」と続けると、岩崎は「殺さない!!」と叫ぶ。

裁判長に即座に退廷を命じた岩崎は、刑務官に引きずられながら「殺すわけがないだろう! 殺すわけがない!!」と絶叫する。

一旦休廷となり、被害者意見陳述は時間を改めることに。
だが開廷後、冨田さんは精神的ショックのあまり証言をすることができず帰宅した。

騒動は初公判でも起きていた。

「被告人が結婚してくださいと言ってきた」検察官により冨田さんの調書が読み上げられている最中、岩崎は「フフフッ」と笑った。

「以降、被告は終始ニヤニヤしていました。ブツブツと独り言も多く、あまりの気味の悪さに裁判員も顔をしかめていました」と傍聴人が語ったという。

 

批判・問題点

岩崎の危険性がわかっていながら事件を防げなかったことにより、過去のストーカー事件の教訓が活かされていないという旨の批判が相次いだ。
ストーカー規制法の不備

逗子ストーカー殺人事件の反省から、2013年7月よりストーカー規制法による取り締まり対象に「連続した電子メール」が追加されており、実際に逮捕者も出た。
しかしブログやTwitterといったSNSの書き込みは電子メールとの解釈はなされずに事実上野放しとなっていた。
事件後この規定が時代錯誤であるとして各マスメディアや専門家が一斉に非難し、ストーカー規制法改正に向けた署名活動も開始された。
この事件を受け政府与党は、SNSを規制対象とし、ストーキング行為を非親告罪化する改正案を提出予定との方針を明らかにし、衆議院本会議で全会一致で可決された。

 

警察の不手際

事件発生前より真由さんの被害報告や岩崎の異常行動を把握しておりながら適切な対処を取れなかった警察にも批判が相次いだ。
批判対象となった事柄は以下の通りである。

・真由さんに相談を受けたにも関わらず緊迫性は高くないと判断し、ストーカー案件を取り扱う専門部署に報告しなかったこと。
・岩崎が他の女性に対し嫌がらせ行為をした際、被疑者登録を失念し、警察署同士の情報共有がうまくできなかったこと。
・武蔵野警察署は真由さんの相談後、岩崎がトラブルを起こす可能性を考慮し真由さんの携帯電話番号を110番緊急通報登録システムに登録したが、真由さんの自宅を事前に登録していたため、真由さ んによる110番通報後位置情報確認を怠り自宅に警察官を派遣したこと。

これらの批判を受け警察庁長官は「どんな場合でも被害者の身に迫る危険を正しく判断し、守るのが警察。教訓を全国的に共有し適切な対応を徹底する」と語り、ストーカー対策には警察本部と警察署などが一体となって対処することなどを指示。
警視庁は真由さんとその家族に謝罪したことを明らかにし、同日、「安全を早急に確保する必要があると判断すべき事案だった」とする最終の検証結果を公表した。

 

一方、真由さんは同日、「殺されるかもしれないと何度も警察に伝えたにもかかわらず危険性がないと判断されたのは今でも理解できません」などとする手記を公開した。

 

こうした警察の対応についてジャーナリストの清水潔は、「桶川事件と同じ構図」であると批判している。

ストーカーについての一覧に戻る
ページ先頭へ戻る