ストーカーについて

「行動レベル・心理レベルで見る危険度」

■行動レベルで見る危険度
ストーキング行為によって起きている被害や危険がどの程度なのか、客観的に見るための方法があります。
ピラミッド型の三角形を三分割した図を想像してみて下さい。
下段の大きい部分が①マナー違反レベル。
中段が②不法行為(民事訴訟相当)レベル。
上段の三角形が③刑事事件レベルです。

 

まず被害がどのレベルにあるのか、起きた事実を元に被害者を一緒に確認していきます。
例えば、いくら拒否をしても「愛している」「付き合いたい」「離れたくない」など追いすがるようなメールが送られてくる、贈り物や花束が届けられるというのは①の段階。
メールの文言が「誠意を見せろ」「死ね」など相手に恐怖を与えるものになり、家や会社で待ち伏せされるような事態は経済的・精神的実損を伴うので②の段階です。
「訴える」と言われたらさっさと訴訟レベルで応じればいい事ですし、もし不法行為がストーカー規制法に抵触するものなら行政処分である警告を発令してもらいます。
その警告が効かない場合はすでに③のレベルで、告訴が受理されれば逮捕も可能です。
傷害や強制性行、名誉毀損などがあれば、規制法とは別の罪状で処罰を願い出る事ができます。

 

■心理レベルで見る危険度
それは加害者のメールなどの文言でもある程度分かりますし、加害者と被害者の関係を注意深く観察すれば判別できます。
さらに妄想の有無など精神面に潜む危険を見抜く事ができれば、重大事件を防ぐ事が可能です。
加害者の内面の危険度を見る時、私は
①リスク(可能性)
②デインジャー(危険性)
③ポイズン(有毒性)
という三つの段階を設定しています。

 

①の段階では被害者の対応次第でよい方向に向かいますが、②の段階では危険性が雪だるま式にふくれあがり、警察の警告、カウンセラーや弁護士が間に入るなど第三者による介入が必要です。
そして③は加害者の存在自体が毒であり、加害者はストーキング病と見てよく、最悪殺人事件も起きかねないもっとも危険な段階です。
一刻も早く自分が逃げるか、相手を排除するか、少なくとも加害者の行動を見張らなくてはなりません。
何も対策を講じなければ、危険度が上のステージに進むだけで、いくら神頼みをしても逆方向には行かないのです。

破恋型ストーキングでは、被害者が別れを告げると、加害者はまず「やり直したい」と言います。
この時点なら①のリスク対応でほぼ対処できます。
具体的には、貸し借りは清算した上で、ハッキリ「別れたい」という事です。
この時は二人きりにならない環境で話をするべきで、それ以降も二人きりになる事は避けます。

 

しかし、電話はメールの文言が「責任を取れ」「誠意を見せろ」「消えてほしい」「死んでやる」など切迫してきたら、加害者の心理は②の段階に進んでいて、被害者が対応しても効果はなくむしろ危険です。
私のような第三者が早急に加害者と面談するか、あるいは弁護士が代理人になるなど、両者の直接的接触を避けて話し合いを進めると同時に、家族、会社、学校など身近で大切な関係者に事情を報告しておきます。
何かあった時に直ちに対応できる態勢を作ってもらうのです。
そして、できれば緊急時に身を隠せる場所のめどをつけておきます。
いつでも警察や弁護士、時には相手の身内に介入をお願いできるように、これまでの記録も用意します。

 

さらに文言が「呪ってやる」「殺してやる」「火をつける」「人生を破滅させる」などの脅迫になれば③の段階に達しています。
もはや警察力によるしかありません。
ストーカーの心理の危険度は、行動からも推し量ります。
待ち伏せや名誉棄損は②、複数回の待ち伏せや住居侵入、職場への嫌がらせ、追いかけ、復讐行為などが起きていたら③と見なし、証拠を収集して直ちに警察に被害届を出します。
②と③においては、私はカウンセラーとして加害者と面談し、ストーキングを止めるように説得しますが、それでも聞く耳がなければ、②では最低でも警告の申し出、③であればストーカー規制法違反か脅迫罪で告訴して逮捕してもらうように指示します。
被害者が警察に訴えない大きな理由として、報復を恐れる心理があります。
被害者の多くは相手が逮捕される事を求めておらず、逮捕をされてもすぐに戻ってくるという無力感を持っています。

 

 

出典: 「ストーカー」は何を考えているか /小早川 明子 /新潮新書

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