詐欺、脅迫等犯罪トラブルについて

「被害届」「告訴」「告発」

三者とも「捜査機関に犯罪の被害に遭ったことを申告する」という点で共通していますが、「犯人の処罰を求める意思表示が含まれるかどうか」という点が大きく異なります。

 

「被害届」は、被害者ないし被害者の関係者が、警察等の捜査機関に対して犯罪事実の申告をするものにすぎないので、これにより何らかの法的な効果が生じるわけではありません。
被害届があっても、警察等の捜査機関が捜査するかどうかは、捜査機関の判断になります。
 
「告訴」は、被害者または法定代理人や親族等の告訴権者が、警察や検察等の捜査機関に対して犯罪事実を申告し、かつ犯人の処罰を求めるものです。
そのため、告訴を受理した捜査機関は捜査を開始しなければなりません。
告訴がなければ刑事裁判をすることが出来ない犯罪(親告罪)については、告訴が申告期間内(原則として犯人を知った日から6ヶ月)になされなければ告訴は受理されず捜査は行われません。
但し、強姦罪や強制わいせつ罪などの性犯罪については告訴期間の制限はありません。
「告発」は、被害者や告訴権者ではない第三者が、警察等の捜査機関に対して犯罪を申告し、かつ処罰を求める意思表示を行う行為であり、告発は誰でもできます。
告訴同様、告発を受理した捜査機関は、捜査を開始しなければなりません。
尚、公務員は職務上、犯罪を認知したときは告発する義務を負っています。

 

そうなれば、被害届では捜査義務が発生しないため、被害届ではなく告訴状を提出したいと考える方もいるでしょう。
しかし、実際問題、告訴を受理してもらうのは簡単なことではありません。
警察や検察は、日々事件処理追われ、大変に忙しい状況にあります。
その上、冤罪事件を起こせば大問題になることから、起訴後の判決は100%有罪にしたい(実際、起訴後の有罪判決率99%です)と考えており、「現状揃っている証拠だけでも、十分に有罪となる見込みがある」といった場合でないと、告訴を受理したがりません。
告訴の場合、告訴状を受理したら捜査機関である警察は捜査を開始しなければならず、検察に捜査書類等を送付する義務も発生しますし、終局処分の判断は上司決裁になってしまいます。
そして検察は起訴をした時もしない時も、その通知を告訴人にしなければなりませんし、また起訴しない場合、告訴人から請求があればその理由も通知しなければいけません。
つまり、告訴を受理すると、警察の負担がとても大きくなるという側面もあります。
そのため実際には「まずは被害届を提出する」のが一般的となっているのです。
また、告訴・告発には捜査機関に捜査義務が発生するだけあって、告訴・告発する者にもある一定の責任を負わせています。
告訴・告発等により公訴の提起があった事件について、被告人が無罪又は免訴の裁判を受けた場合に、告訴や告発をした側に故意又は重大な過失があったときは、その者が訴訟費用の負担、場合によっては損害賠償請求を受ける危険もあります。
また、虚偽告訴罪の構成要件を充たした場合は、虚偽告訴罪で刑事責任を問われる可能性もあります。
被害届の受理は「捜査の端緒」と言って、あくまでも「捜査開始の原因となるもの」の一つに過ぎず、被害届は警察にとってとても都合の良い書類で、警察が必要と考える場合のみ捜査すればよく、逆に逮捕状請求時などにはその証拠とする事もできます。
しかし被害届に関しても、最近では警察の初動捜査に関する批判から、捜査・立件に必ずしも捉われずに「告訴・告発に準ずる書面」としての取扱いが図られてきているようではあります。
これらの事が「よほどしっかりした犯罪被害を訴えないと、告訴は受理してくれない」といわれる理由だと考えられます。

 

■告訴と被害届,それぞれのメリットとデメリットとは?

 

□告訴のメリット
・受理されれば速やかな捜査によって必ず送検されること。
・検察庁からの処分結果通知を受けられること。
□告訴のデメリット
・捜査協力が負担になること。
・事実と著しく異なる告訴をした場合に虚偽告訴罪、損害賠償請求など反撃を受けやすいこと。
・「犯人を名指しして処罰を求める行為」に対するリスクを理解の必要。

 

□被害届のメリット
・犯罪被害の申告にとどまるので、受理が容易であること。
・事情聴取のうえで警察官が代書してくれるので,弁護士などの専門家に依頼する場合に比べて,費用負担がないこと。
・届出があれば警察官は被害届を受理する義務があります。
・一般的には作成が困難かつ費用負担が発生する告訴状と異なり、警察官による代書で作成される被害届は敷居が低い。
□被害届のデメリット
・捜査の裁量が警察官に任されていること。
・時間が過ぎれば未解決事件のファイルに綴じこまれてしまい、日の目をみないまま時効を迎えることもあり得ます。
・長期未解決であっても報告義務もないので、被害者の立場からすれば捜査の進捗状況が不透明。

 

それぞれにメリット・デメリットがありますが、必要性や処罰意思の強さに応じて手段を選択するべきでしょう。
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