いじめについて

「いじめ」とは

□「いじめ」とは

自分より弱い者に対して暴力やいやがらせを加え,身体的・心理的に苦痛を与える行為。

1980年代,特に学校において校内暴力が沈静化するとともに問題となり,いじめが原因とみられる不登校,自殺,事件が多発,深刻な社会問題,政治問題となった。

1994年,文部省がいじめ対策緊急会議を発足,1996年『児童生徒のいじめ等に関するアンケート調査』を公表,いじめ問題への取り組みを提言した。

2007年1月,定義を「一定の人間関係のある者から,心理的・物理的な攻撃を受けたことにより,精神的な苦痛を感じているもの」とし,いじめかどうかは当該児童生徒の立場に立って判断するよう徹底するとした。

原因や背景として,協調性・思いやり・規範意識・フラストレーション耐性の欠如,対人関係の不得手,知識偏重や競争意識による社会の差別構造,将来の目標の喪失,集団のいじめに対する認識不足などが考えられる。

態様は,いたずら,いじわる,ひやかし,からかい,持ち物隠し,仲間はずれ,集団による無視,悪口,陰口,暴力,リンチ,たかり,恐喝など。近年はパソコンや携帯電話を使ってインターネット上で誹謗中傷する「ネットいじめ」と呼ばれる手口が増えた。
〈出典:ブリタニカ国際大百科事典 〉

 

相手に身体的または心理的な攻撃を加えること。

また相手が苦痛を感じる様子を見て快楽を感じること。

特に学校でのいじめについては、文部科学省が「当該児童生徒が、一定の人間関係にある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」と定義している。いじめの発生場所は、学校の内外を問わない。

心理的な「攻撃」とは、仲間はずれや集団での無視など心理的な圧迫を加えられること、物理的な「攻撃」とは、身体的な攻撃に加え、金品をたかられたり、隠されたりすることを指す。ただし、「けんか」は除くとされている。
文部科学省では、学校でのいじめの判断は「表面的・形式的に行うのではなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うこと」としている。

だが、いじめは全国的に多発し、いじめを背景とする生徒の自殺が後を絶たない。

そこで、文部科学大臣は2012年7月に、「子どもの生命を守り、痛ましい事案が二度と発生しないよう、学校では兆候を見逃すことなく、いじめを把握した時は抱え込まずにすみやかに市町村教育委員会に報告すること、また都道府県教育委員会と学校、市町村教育委員会との連携を深め対処すること、文部科学省も積極的に支援し学校、教育委員会、国などの関係者が一丸となって取り組みたい」との内容の談話を発表した。
更に文部科学省は12年9月に、いじめ問題の対応として公立中学校に専門家チームを新設することなどを盛り込んだ「いじめ対策アクションプラン」を発表した。

これは学校や教育委員会だけでは対処しきれない現状を受けて策定されたもので、弁護士や精神科医など専門家による「いじめ問題アドバイザー」を設け、防止策を作成。加えて、教育委員会に「いじめ問題等支援チーム」を作り、大学教授や弁護士などが現場の対応に当たるとした。

すべての公立中学校と65%の小学校に子どもたちの悩み相談を受けるカウンセラーを配置するという動きもある。

文部科学省には07年から全国どこからでも24時間いじめの相談ができる「24時間いじめ相談ダイヤル」が設置されているが、上記アクションプランではこの相談ダ イヤルの見直しも検討されている。
一方、法務局や地方法務局では、「こどもの人権110番」を設けて電話相談に応じている。

ここではいじめだけでなく、児童虐待などの相談も行っている。

また、自治体によってはいじめ問題緊急対応事業費などを盛り込んだ予算案を提出しているところもある。
学校教育法には、学校の秩序維持のために問題のある児童・生徒の出席を制限するという出席停止の制度がある。

東京都品川区など一部の自治体では制度の運用を決めているが、「判断が難しい」と慎重に検討している自治体も多い。
最近のいじめは陰湿で、周囲にいじめていることが分からないようにする「いじめ隠し」が多いと言われている。

更に、12年に起こった大津市中2いじめ自殺事件のように、学校や教育委員会がいじめの「隠蔽」を行うケースもあるとみられている。

それだけに、より効果的な対策が求められている。例えば大津市では、いじめの事実解明を進めるために第三者調査委員会を設置し、取り組みを始めた。
〈出典:知恵蔵〉

□日本のいじめ問題

文部省(現文部科学省)は、1995年の「いじめ対策緊急会議」の報告、および「いじめ問題の取組みの徹底等について」の通知において、臨床心理士を中心としたスクールカウンセラーの学校への派遣、いじめの情報提供・電話相談などを行ういじめ問題対策情報センターの設置など、いじめ対策の基本的な方針を明らかにした(いじめ問題対策情報センターは2001年3月に業務終了)。

また96年同省に設置された児童生徒の問題行動等に関する調査研究協力者会議は、「いじめは特別の児童生徒間または特別の学校での事柄ではなく、いつ自分のクラスの児童生徒や自分の学校に深刻ないじめ事件が発生するかもしれないという気持ちをつねにもっていることが大切である」と警告する報告書をまとめた。
いじめの発生件数は、1998年度(平成10)で約3万6400件であり、小学校ではおよそ6校に1校(17.1%)、中学校では2校に1校(44.6%)、高等学校では3校に1校(29.6%)、特殊教育学校(盲学校、聾(ろう)学校、養護学校)では13校に1校(7.7%)で起きたことになる。その全体的態様は、以下のようになっている。
(1)冷やかし・からかい 28.5%
(2)ことばでの脅し 17.4%
(3)暴力 15.5%
(4)仲間はずれ 15.2%
(5)持ち物隠し 7.7%
(6)集団による無視 5.8%
(7)たかり 3.1%
(8)おせっかい親切の押付け 1.4%
(9)その他 5.4%
いじめの場は、集団外と集団内の二つに分けられる。

集団外のいじめは古典的なタイプであり、集団に属しないものに対する攻撃や排除として現れる。

実際に集団に帰属する・しないにかかわらず、価値観や外見を理由に異質なものを排除するために行われる。

これに対し集団内の場合は、内部の秩序維持や価値観の一体化のための、集団内の弱い者に対す る迫害、物品の強要や行動の強制などが多いとされる。

社会病理学者の森田洋司(1941― )による「いじめの四層構造」説は、いじめは加害者、被害者、観客、傍観者の四者関係で成り立つというものであり、その特徴をよく表している。
文部省調査研究協力者会議報告によると、いじめの社会的・制度的背景について、以下の三つの要因が指摘されている。
(1)家庭的要因 乳幼児期から、基本的な生活習慣や生活態度が十分に教育されていないこと。
(2)学校的要因 単一の尺度で児童生徒を評価しがちな傾向がなおみられること。ひとりひとりの個性、特性を伸ばす教育が十分行われていないこと。ともすると指導が柔軟性に欠け、児童生徒の多様な実態に十分に対応できていないこと。
(3)地域社会 の要因 住民の連帯意識が希薄化し、地域社会全体で子供を育てるという意識が低下し、その教育力が低下していること。
いじめをなくすためには、閉鎖的な学校を思いきって開き、固定的な教育発想から抜け出すこと、子供たちの生活空間を広げ、遊びや生活における自己形成を励ますことが必要になる。

それは日本の学校の慣習や教師の文化、学校の試験や進学の仕組みを変えることにほかならない。[神山正弘]

□世界のいじめ問題

いじめは、国境を越えて存在する各国共通の悩みである。

英語でいういじめbullyingは「1人またはそれ以上の者が、力の弱い者に対して脅かしたり身体的苦痛を与えたりすること」とされている。

通常、男子の場合は「仲間はずれ」と「身体的攻撃」が、女子の場合は「仲間はずれ」と「服装や容姿に対するからかい」が典型となっている。
アメリカでは、在学生徒の約10%がいじめの被害にあっているとされ、それが原因でランチタイムや休み時間中のひきこもり、仮病による欠席などをもたらしているという。

長期的には、自尊心の損傷、恐怖心や不安感の蓄積、学力の未形成などを生み出し、登校忌避に至る場合が多い。こうしたトラウマtrauma(心的外傷)は、カウンセリングを必要とするほどだという。
ヨーロッパでも、ノルウェーの児童心理学者オルウェーズDan Olweus(1931― )の調査などによっていじめの実態が明らかにされ、対策がとられている。

1983年のノルウェーの調査では、全国公立小・中学生約57万人のうち約8万人(15%)、すなわち7人に1人がなんらかの被害者としていじめを体験していると推計された。

90年のイギリスのある地域での調査では、10~20%の範囲で被害を受けているとの調査報告がある。
児童臨床心理学者の深谷和子(1935― )は、いじめとその周辺行為を、(1)小さな攻撃、(2)いじめ、(3)いじめ非行に分類し、外国との共通性は(1)と(3)であり、(2)は日本固有の現象ではないかという見解を提起する。それは日本社会の人権意識の低さに由来するものではないかという意見である。[神山正弘]

〈出典:日本大百科全書〉

いじめについての一覧に戻る
ページ先頭へ戻る