ストーカーについて
■ストーカーは大きく分けて以下の四つのタイプに分類されます。
・交際を拒絶した相手へのストーキング(拒絶型)
・見知らぬ相手からのストーキング(イノセント型)
・著名人に自分をアピールするストーキング(ファン型)
・元交際相手や元配偶者を追い求めるストーキング(破恋型)
拒絶型のストーカーは交際を断られたというクラッシュによって激しく相手を恨んで攻撃を加えるタイプで、短絡的思考と攻撃性が特徴です。
イノセント型のストーカーは仕事の取引先で見かけた、電車の中で見かけたなど、被害者は顔見知りではないけれど相手が勝手に自分に好意を抱いているケースで、陰湿なタイプが多いのが特徴です。
ファン型のストーカーは以前はもっぱら有名人が狙われましたが、最近はブログやSNSで知った人に一方的に好意を寄せ、返事がなかったり素っ気なかったすると突然ネット上で誹謗中傷などを始めるという例が増えています。
リアルではないネット上の世界で関係を作り始めた人間の新たなストーキングの形ですが、「一対多」から「一対一」の関係に持ち込みたい心理です。
■全体の約八割を占める「破恋型」
多くの「破恋型」ストーカーは、別れる事を「悪」と思い込んでいて、もし別れるのであれば両方が納得するまで話し合うべきだと考えています。
両方の合意で始まる男女関係が、一方からの申し出によって終わりになるという現実を受け入れられません。
一方的に「別れ」を告げる相手は「人としておかしい」と考え「言われた自分は被害者」で、相手に「見捨てられた」「裏切られた」と解釈します。
そのネジ曲がった解釈が怒りとなり、体全体を支配していきます。
そうなるともう他の事など考えられず、寝ても覚めても相手の事を考え、まるで支配されているような錯覚にさえ陥り、もっと相手を憎み、愛着しながらも攻撃をし続けるのです。
プライドが高くて傷つきやすく、自分を抑圧してきた人は他人の事も批判の目で見ます。
批判をするには正義を盾にするのが最も簡単で「約束を守れ」「無視するな」と常に自分を正当な位置に置きたがります。
その意味ではストーカーは実に律儀で、まるで教師のような態度で「誠意」「信頼」「道徳」「人として」といった言葉を多用しますが、実際に本人がしている事はストーキングですから言葉と行動が反比例している自己矛盾をさらけ出しています。
別れた相手に対して道義的責任を求めているつもりで「生きていてほしくない」「会社を辞めてほしい」などと自己犠牲を求めるのは、法律の世界でも道義の世界でも認められません。
もちろん「二人の信頼関係を取り戻せ」も「時間を返せ」も「心の傷を治せ」も同じように不可能な要求です。
「破恋型」ストーカーの中には、相手がいなくなった事でパニックを起こして、薬物依存の禁断症状のように制御不可能な状態に陥っている人がいます。
特徴的なのが依存対象を破壊していく事です。
交際中は逃げられないように支配していたのがその相手が逃げ出すと「あなたがいないと生きていけない」と追いすがり、それでも戻らなければ「死にたい」や「死んでもらいたい」と言って相手を苦しめ、果ては「殺したい」とまで考えてしまいます。
そこまで相手に執着するのは、独りで生きる事への不安が極端に強いからだろうと思いますが、学歴や社会的地位、収入とは関係ありません。
「別れたい」と言われ、懇願しても引き留められない分かると、攻撃を強めて恐怖で支配しようとする。
ありとあらゆる口実をこしらえ、意義申し立てをする事で何とか相手との関係を繋ぎ止めようとします。
そこで突然相手から遮断されたり、警察に介入されたりすると、一気に恨みが増幅されて攻撃要求を高め、相手を破滅に追い込もうとする危険があります。
時には傷害事件、殺人事件まで発展する事もあり、これがストーキングの最悪の事態です。
出典: 「ストーカー」は何を考えているか /小早川 明子 /新潮新書